忠兵衛ぐでんぐでん日記

高知の歴史好きが作ったプチ武将列伝&ざっくばらんな話集等です。

【楠と八幡大菩薩】

天文13年(1544年)如月の子の刻(0時~2時頃)
岡豊城中にある楠の巨木が突如轟音と共に倒れた。
この楠周囲は一丈(約3m)高さは十丈を越える大きさであった。

岡豊城主長宗我部信濃守(国親)はさっそく城下にいた池澤と名乗る天文に明るい卜者よ呼び寄せた。

「此度の事吉凶いかなるか?」
と国親は尋ねた。

池澤は怪しげな儀式を行うと
「まず楠とは木つまり東と南が合わさりし文字でございます。
つまりこの地より東南の大家が滅びる事を予期したる証なり。
天運これに定まりしとのお告げに間違いありませぬ。」
と自信満々に話した。

この言葉にカラカラと笑い上機嫌となった国親は池澤に褒美を
与えると城中に集まった群衆に対してこう話した。

「これは誠に喜ばしい限り也。此疑心露ほども無く八幡大菩薩による
吉報であると我確信したり。」

国親は吉日良辰(きちにちりょうしん)に八幡宮(岡豊別宮八幡)にて
臨時の祭礼を盛大に挙行した。
長宗我部の家臣を始め、岡豊周辺の民衆が噂を聞き八幡宮に押し寄せた。
神楽を奉納していた際、群衆の中にいた童が突然奇声を発すると全身を震わせながら何度も跳ね上がり、猿の如き速さにて社殿に駆け上がった。目を大きく見開き国親らをギロリとにらみつけると
童からは到底発することのできない程恐ろしい声でこう叫んだ。
「我八幡大菩薩也。己らの信仰誠に持ってめでたい限りかな・・・」
そういうと童は踊りながらズズッと国親の前にと進み、仁王立ちして見下ろしながら
「おまん!うぬは事あるごとに父の無念を晴らす事のみを考えておる。
この不動の如き怒り、我心底より不憫に思おうておる・・・」
人間が限界まで流せるよりも遥かに大量で大粒の涙を流しながら童はさらに国親を睨みつけながら
「我の思いを見事に察したおまんは本に天晴天晴なり。
国親よ!!まずは南方より四方に向けはよう馬をだせ!
はようはよう!急がぬか!はようはよう!!その軍には我の加護が付いておる。頼もしく思い思うままに進めよ!きやぁ~ッ!!!」
童は手を大きく振り回しながら国親以下長宗我部家臣達の周りを走り抜けると
気が抜けたようにぱたりと倒れ込んだ。

しばらく、動かなかった童だが突如むくッと起き上がると目を丸くして驚いた。
童に問いただしてみたが全く覚えていなかった。

しばらくの沈黙が続き、その場に居合わせた者達がザワザワとし始めると、
国親歓喜余って天を仰ぎ涙を流しながら。
「なんともめでたきお告げであろうか・・・この国親
一部の迷いも無くただ己の信念を貫かん!!」

こうして、長宗我部の領土拡大が開始された。